魂について 治癒の書 自然学第六篇

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治癒の書 自然学第六篇
イブン・シーナー(980-1037)により,11世紀初頭にアラビア語で書かれた『治癒の書』は,論理学や自然学,数学,形而上学など多くの学問分野を体系的に論じた大部の著作である。イスラーム哲学史上,決定的に重要な作品であるが,主に自然学と形而上学が12世紀から13世紀にかけてラテン語訳され,ヨーロッパの思想界にも多大な影響を与えた。そのうち『魂について』は50の写本が残っている。
本書で扱われる魂の議論は,アリストテレスやアレクサンドリア学派の影響を受けて自然学と形而上学の二分野にまたがり,肉体とのつながりは自然学で扱い,死後の魂は形而上学に分担されている。アリストテレスは知性の不滅性について深くは言及しなかったが,イブン・シーナーは魂論の根底にその不滅性を据えて,非物質的知性が死後も個体として存続するとしてアリストテレスを否定した。
『魂について』が哲学史に与えた論点として,空中人間論,内的感覚論,評定力,預言論,能動知性論などがある。なかでも内的感覚論は受容されたが,能動知性論は激しい批判を受けて,抽象的認識論や直感的認識の理論に結実した。
12,13世紀における西洋の文化発展はギリシア語,アラビア語,ヘブライ語の翻訳によるところが大きい。『魂について』における見解がアリストテレスの意見とされたり,アリストテレスの魂論になくてイブン・シーナーの魂論に付加された論点など,多くの研究課題が残されている。その意味で本訳業は学界にとっても記念碑的な業績になろう。

【解説】イブン・シーナー『魂について』をめぐる思想史的地図(山内志朗)

〔序文〕
第一部(全五章)
第一章 魂の確立と魂であるかぎりにおける魂の定義
第二章 古人たちが魂と魂の実体について述べたことの記述とその論破
第三章 魂が実体のカテゴリーに入ること
第四章 魂の諸作用の相違が魂の諸能力の相違によるものであることの説明
第五章 魂の諸能力の分類列挙
第二部(全五章)
第一章 植物的魂に関係のある諸能力の確認
第二章 我々にそなわる各種の知覚作用の確認
第三章 触覚について
第四章 味覚と嗅覚について
第五章 聴覚について
第三部 視覚(全八章)
第一章 光,透明体,色彩
第二章 明るみは物体ではなく物体に生じる質であること,また明るみと光線にかんする諸説と疑問
第三章 これらの謬説の完全な矛盾,なぜなら明るみは鮮やかな色彩とは別のものである,また透明体と輝くものについての議論
第四章 色彩とその発生について述べられた諸説の検討
第五章 見るはたらきにかんする諸説の相違と謬説そのものにおける謬説の論破
第六章 彼らの教説をその教説に述べられた事柄によって論破する
第七章 彼らがもたらした疑問点の解決,そして透明体と光沢のあるものに対する配置がさまざまに異なる視覚対象にかんする議論の締めくくり
第八章 一つのものが二つのものに見える理由
第四部 内部感覚(全四章)
第一章 動物にそなわる内部感覚の概説
第二章 これらの内部感覚に属する形相化能力と思考能力の諸作用,および眠りと覚醒,正夢と逆夢,ある種の預言者的諸特性の議論
第三章 想起能力と表象能力の諸作用,またこれらすべての能力の作用が物質的な器官によるものであること
第四章 運動能力のありさまとそれに結びついた預言者性の一種について
第五部(全八章)
第一章 人間にそなわる能動作用と受動作用の諸特性,および人間的魂にそなわる思弁と実践の諸能力の説明
第二章 理性的魂が物質的素材に押印されずに存立することの確立
第三章 この章は二つの問いを含み,その一つは人間的魂はどのように諸感覚を利用するかということ,第二の問いは魂の発生の確立である
第四章 人間的魂は滅びることも輪廻することもない
第五章 我々の魂に作用する能動知性と我々の魂から作用をこうむる受動知性
第六章 知性の作用の諸段階と魂の最高段階である聖なる知性
第七章 魂とその諸作用,魂が一であるか多であるかについて,古人たちから伝えられた教説の列挙,それらについての真実の説の確認
第八章 魂にそなわる諸器官の解明

訳者あとがき
諸版対照表

イブン・シーナー 著
木下 雄介 訳
出版社: 知泉書館

魂について 治癒の書 自然学第六篇

7,150円(本体6,500円、税650円)

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